こうした「ゆがみ」を説明しようとすると、これまでの理論の枠を超える発想が必要になります。
たとえば、ハッブル定数(宇宙膨張の速度)の食い違いや初期宇宙に存在するはずの巨大銀河をめぐる謎など、標準理論では説明が難しい観測結果が次々と報告されています。
これを踏まえると、「実は宇宙全体が巨大なブラックホールの内側にある」という仮説は、新たな可能性として注目に値します。
ブラックホールは強い重力だけでなく、特有の回転(スピン)をもつ天体です。
もし私たちの宇宙がそうしたブラックホール内部にあるとすれば、そのスピンが拡大され、銀河の回転方向にも一貫した傾向として現れるかもしれません。
これは暗黒物質や暗黒エネルギーのような未知の存在を仮定することなく、宇宙の観測結果を説明できる枠組みとしても議論が進められています。
似たような説は以前にも発表されています。
実は宇宙全体がブラックホールだった?宇宙の全物体を表記した図から意外な結論
もちろん、今回示された銀河の回転方向の偏りが、まだよくわかっていない「回転の物理」や、観測にともなうバイアスなどによって生じている可能性も否定はできません。
今後さらなる高精度のデータを収集したり、まったく別の手法で解析したりすることで、“ブラックホール内宇宙”という大胆なシナリオが本当に有力なのか、それとも別の要因で説明できるのかが明らかになるでしょう。
それでも、「私たちがブラックホール内部にいるかもしれない」という考え方が、今回のように具体的な観測事実に基づいて議論され始めているのは注目すべき変化です。
もし本当に宇宙が“想定外の軸”をもっているのだとしたら、その軸がどのように形成され、私たちはその中でどの位置にあるのか――さらには私たち自身が何者なのかという根源的な問いにまで、新たな視点がもたらされるかもしれません。
これは単に理論を置き換えるだけでなく、宇宙の成り立ちや進化を一から見直す、大きな一歩となるに違いありません。