私たちの宇宙は、どの方向を見ても同じような構造を持つ――これを「等方性」と呼び、現在の標準的な宇宙論では当然の前提とされています。

ところが、もしある方向に回転する銀河が偏って多い、もしくは少ないとわかったらどうでしょう。

宇宙をまんべんなく観測したつもりでも、何らかの“ゆがみ”が潜んでいるかもしれません。

銀河の回転方向は、その“ゆがみ”を見つけるうえで非常に重要な手がかりになるのです。

従来の地上望遠鏡による観測でも、銀河の回転方向に偏りがあるらしいという話はたびたび持ち上がってきました。

しかし、当時は観測データが少なかったり、画像の解像度や解析方法もさまざまだったりして、「これだ」と断言できるレベルには届きませんでした。

それでも近年、宇宙の初期段階にすでに巨大な銀河が存在していたり、ハッブル定数(※1)の値が理論予測と食い違ったりといった、標準宇宙論にとって都合の悪い(あるいは刺激的な)事例が増えています。

これらの謎の解決策として、宇宙そのものがブラックホールの内部にある、という大胆な仮説が再評価され始めたのです。

ブラックホールは極めて強い重力と回転(スピン)を持ちます。

もし宇宙全体がブラックホールの中にあるのだとしたら、その回転軸が銀河たちの並び方や回転方向にも影響を与えているのかもしれません。

そう考えると、これまで説明しきれなかった数々の現象も、新しい角度で理解できる可能性があります。

実際、「ブラックホール内宇宙」という発想をとると、暗黒物質(※2)や暗黒エネルギー(※3)に頼らずに銀河の回転や宇宙膨張を説明できるかもしれない、という議論もあるのです。

そこで今回、研究者たちはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の大型観測プロジェクト「JWST Advanced Deep Extragalactic Survey(JADES)」によって得られた深宇宙の写真を徹底解析し、膨大な数の銀河が実際に「どちら向きに」回転しているのかを調べることにしました。