あるとき、同業の三社が中国へ進出し、ずいぶん甘い基準が設けられたと思っていたら、案の定、朱鎔基副首相から横やりが入った。その際、関東本社の二社は猛抗議したが、関西本社の企業は中国政府と適度な条件で合意し、抜け駆けに成功した。

一般に、中国ビジネスで失敗すると、企業は社会的にも社内的にも中国の悪いビジネス環境を吹聴し、それが広まる。しかし、私には少々誇張された話のように思える。

もちろん、中国でのビジネスには問題もあった。特に、謎の逮捕や出国禁止、後任者へのビザ発給拒否といった嫌がらせは深刻な課題だ。しかし、アメリカでも巨額の賠償請求訴訟があることを考えれば、どちらも一長一短と言えなくもない。

不可解なのは、日本企業が社員の拘束や追放に対して十分に抗議しない傾向があることだ。

問題は多々あるものの、成長を続け、やがて世界一の経済大国になりそうな国が市場として近くにあり、しかも漢字という共通の文字を持つのだから、その有利な立場を生かさない手はない。

アメリカとの同盟関係を維持しつつ、日中関係を改善する努力を続けても損することは何もない。

軍事的には警戒すべきであり、技術や個人情報の流出、技術を通じて従属的立場に置かれる危険性には十分注意を払うべきだ。ただし、それは他国との関係でも同じことが言える。距離を取るという考え方は馬鹿げている。工場撤退の動きもあるが、1990年に75倍あった日中の一人当たりGDPの差は2023年には2.7倍にまで縮小しており、今後さらに差が小さくなっていく可能性が高い。そのため、ビジネスの形は変化していくだろう。

ましてや、ヘイト的な感情に基づく毛嫌いは愚かなことだ。観光客の振る舞いに憤慨する人もいるが、パリでの日本人観光客の振る舞いや、現地での嫌われ方と大差ない。むしろ、かつては日本人観光客のマナーは今よりもひどかったが、それでも問題視されてこなかった。