片方がすべてを呑み込む“ブラックホール”の動き、もう片方が吐き出す“ホワイトホール”の動きが、量子的には同時に存在しているかのような状況といえます。
例えるなら、一枚の紙に描いた滝の絵と、逆に空へ上っていく噴水の絵が、透明なシートを重ねたように二重写しになっているようなものです。
古典論では「滝が下へ落ちる」か「噴水が上へ噴き出す」かのどちらかしかありません。
しかし、量子論ではこのふたつが重なり合い、観測の仕方や境界条件によって一方の性質が表に出る――そんな不思議なイメージが見えてきます。
さらに論文著者のギーレン氏は「観測者がブラックホールの特異点と考える場所を通過して、ホワイトホールの反対側に現れる可能性があります」とより大胆な仮説も提示しています。
もちろん、実際のブラックホールはもっと複雑で、ホーキング放射による蒸発などの外側の要素も考慮が必要です。
それでも、このモデルが示すバウンス現象や重ね合わせ状態は、ブラックホールの内部構造が私たちの想像以上にダイナミックで、情報喪失問題や特異点問題に対して思い切った解決策を用意している可能性を示唆します。
そこで問題になるのが、このようなホワイトホールをどう解釈すべきかという点です。
ビッグバンもホワイトホール? 入れ子宇宙の可能性

一つの考え方として、ビッグバンがホワイトホールである、あるいは「私たちの宇宙はホワイトホール的な振る舞いをしている」という仮説があります。
ブラックホールがすべてをのみ込む“入り口”とされる一方、ホワイトホールは理論上“何もかもを吐き出す出口”のような性質を持つため、「ビッグバンもホワイトホールのような振る舞いをしたのでは?」という着想が昔から検討されてきました。
たとえば「ブラックホールの内部が何らかのプロセスを経て別の時空に“出口”を形成し、そこでビッグバンのような爆発的な拡張が起こる」というシナリオなどです。