こうした伝承には、ローズマリーの爽やかな芳香が精神を活性化させたり、集中力を高めたりする経験的な知見が含まれていた可能性があります。

実際、近年の研究では、ローズマリー精油に含まれる1,8-シネオールなどの香り成分が、一時的に脳の覚醒度を高めるだけでなく、ストレス軽減や作業記憶パフォーマンスを改善する可能性があると報告されました。

小規模ながらも、これらの成分を含むローズマリー精油を吸引することで、短期記憶や注意力が向上したという実験結果も存在します。

一方で、こうした効果はあくまで一時的・補助的なものであり、慢性的な記憶障害や神経変性に直接対処するほどの強力な作用ではない点も指摘されています。

それでも、民間伝承から得られた知見と、現代の研究で示唆されるローズマリーの認知機能サポート効果が相まって、ローズマリーやセージに含まれるカルノシン酸(CA)は科学的にも炎症や酸化ストレスを抑える物質として注目を浴びるようになりました。

しかしながら、カルノシン酸は極めて酸化されやすく、そのままの形では保存や投与が難しいという課題がありました。

そこで、スクリプス研究所の研究者たちは、カルノシン酸を安定化させた形「diAcCA(ダイアセチル化カルノシン酸)」を新たに合成し、体内で十分に抗酸化や抗炎症の働きを発揮させる方法を開発しました。

炎症そのものによって活性化される性質を持ち、必要とされる場所で効率よく作用すると期待されています。

さらに、カルノシン酸そのものは米国食品医薬品局(FDA)から「一般的に安全とみなされる(GRAS)」として認められており、臨床応用へのスピード感も期待できます。

では、この安定型のカルノシン酸を実際にアルツハイマー病の治療に活かすことはできるのでしょうか。

そこで研究者たちは、この diAcCA をアルツハイマー病モデルマウスに投与し、記憶機能や神経組織への影響を詳細に調べることにしました。

“記憶のハーブ”は本物か? 最新科学が示すローズマリーの潜在力

“記憶のハーブ”は本物か? 最新科学が示すローズマリーの潜在力
“記憶のハーブ”は本物か? 最新科学が示すローズマリーの潜在力 / この図では、アルツハイマー病モデルである5xFADマウスにおいて、diAcCA治療が脳内のニューロンおよびシナプスの減少をどのように回復させるかを示しています。 パネルAでは、NeuN抗体による染色画像が示され、健常なWTマウスと5xFADマウス間でのニューロン分布の違いが視覚的に比較されています。 パネルBはNeuNの平均蛍光強度(MFI)のバーグラフで、diAcCA治療により5xFADマウスのニューロン数がほぼ正常なレベルに回復していることを定量的に示しています。 パネルCでは、シナプスを示すマーカーであるSynapsin Iによる染色画像が掲載され、治療後のシナプス構造の改善が明らかになっています。 パネルDはSynapsin Iの蛍光強度を示すバーグラフで、diAcCA投与によりシナプス密度が大幅に向上していることが確認できます。 各グラフの個々のデータ点は、各マウスまたは脳切片から得られた値を示しており、誤差は標準誤差(SEM)として表現されています。 さらに、Student’s t-testによる統計解析が行われ、治療群と対照群の間で有意な差が示されているため、diAcCAの効果が科学的に裏付けられています。 全体としてこの図では、diAcCA治療が5xFADマウスの脳内でニューロンおよびシナプスの回復を促進し、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性を強く示唆していることを明確に伝えています。