さらに注目すべきなのは、炎症を引き起こす細胞の活性化が抑えられていたことでした。

脳内の問題を引き起こしている「炎症」の部分だけでdiAcCAが効率よく作用し、正常な組織にはあまり影響を与えないという選択性の高さが確認されたのです。

従来のカルノシン酸をそのまま飲むよりも約20%多くのカルノシン酸が血液中に残ることも示され、「diAcCA は、体内で必要な場所に届く前に酸化されてしまう」という弱点を克服できることがわかりました。

毒性試験では胃や食道の炎症が軽減されるなど、安全性が高いだけでなくむしろ有益な効果も示されたといいます。

この研究の革新的な点は、ローズマリー由来のカルノシン酸を単に安定化しただけでなく、「炎症が強い部位だけで薬が活動を強める」というプロドラッグ設計を実証し、脳内のシナプス回復と炎症抑制を同時に実現したからです。

アルツハイマー病治療薬は、アミロイドβを除去する抗体医薬などが注目を浴びてきましたが、副作用リスクや炎症対応などの課題も依然として残ります。

今回のdiAcCAの成果は、そうした課題を克服しうる新しいアプローチとして、大きなインパクトを与えると考えられます。

次なる一手は臨床試験! ‘記憶のハーブ’がもたらす革命

次なる一手は臨床試験! ‘記憶のハーブ’がもたらす革命
次なる一手は臨床試験! ‘記憶のハーブ’がもたらす革命 / 近年の研究では、ローズマリー精油に含まれる1,8-シネオールなどの香り成分が、一時的に脳の覚醒度を高めるだけでなく、ストレス軽減や作業記憶パフォーマンスを改善する可能性があると報告されました。 小規模ながらも、これらの成分を含むローズマリー精油を吸引することで、短期記憶や注意力が向上したという実験結果も存在します。/Credit:Canva

今回の研究の成果は、ローズマリーに含まれるカルノシン酸を「diAcCA」という形で安定化させることにより、脳内の炎症と酸化ストレスの両面でアプローチできる新たな治療法の可能性を示しています。