また興味深いことに、VR世界で手の一部が隠されていた場合でも、接触が予想されるような棒の動きをした場合、触れられた感覚を感じていることがわかりました。
一方、VR世界で「仮想の棒」の代りに「仮想のレーザーポインター」を使った場合には、現実の肉体に感覚が生じたと報告する人は著しく少なくなりました。
この結果はVR世界に存在する具体的な物体「仮想の棒」との接触体験だけが、現実の肉体に触覚を発生させることを示しています。
研究者たちはこの幻の接触を錯覚する現象について「ファントム・タッチ錯覚(Phantom touch illusion)」と呼ぶことにしました。
では「ファントム・タッチ錯覚」はいったいどんな仕組みで発生しているのでしょうか?
「ファントム・タッチ錯覚」が発生する仕組み

なぜ現実で触れていないのに、触覚が発生するのか?
研究者たちはこの奇妙な現象が「自分で自分をくすぐれない」という事実に関連していると述べています。
脇腹や足裏など、人間にはいくつかくすぐったい場所が存在しています。
しかし不思議なことに、自分で脇腹や足裏を「コチョコチョ」としても、たいしてくすぐったくありません。
足裏など、かなり強く刺激するとくすぐったくなることもありますが、他人のくすぐりほどは感じることはありません。
この差は「触覚ゲート」と呼ばれており、自分の動きをはじめとした予測された感覚を大幅に抑制(キャンセル)する役割を果たします。
ここで注意すべきは、触覚ゲートによる感覚のキャンセルは「麻痺」のような信号遮断ではなく、抑制信号という新たな信号の発信によって感じている触覚を打ち消す点にあります。
簡単に言えば「自分で自分をくすぐる➔触覚の信号が発信&同時に触覚ゲートによって抑制信号発信➔感覚の鈍化」となります。