「事故物件」と聞くと、どんなイメージを持つだろうか?

 曰く付きの部屋、得体の知れない現象、怖い話の舞台――そんな印象を持つ人が多いかもしれない。しかし、事故物件は単なるホラーの題材ではなく、現実に存在する物件であり、実際に住む人もいる。そして、その裏側には意外な事実や誰かに愛された一人の人間の物語が隠れているのだ。

 そんな事故物件に真正面から向き合い、科学的な調査を行う会社がある。「株式会社カチモード」だ。同社の代表・児玉和俊氏は事故物件の調査を通じて、その価値を見直し、適切な運用を提案することを目的としている。

 今回、TOCANAでは株式会社カチモード代表・児玉和俊氏にインタビューを行い、カチモードの活動、彼が見てきた事故物件のリアル、そして児玉氏のこれまでの経験をもとに出版した本『告知事項あり。 その事故物件で起きること』について話を伺った。

「告知事項あり。」の裏側ーー事故物件に新たな価値を生み出すカチモードの挑戦
(画像=『TOCANA』より 引用)

株式会社カチモードとは?

――本日はよろしくお願いします。さっそくですが、カチモードの活動内容を教えてください。

児玉和俊氏(以下、児玉):事故物件は不動産オーナーにとって資産価値の大幅な減少を招く深刻な問題です。しかし、家賃を下げるしかないのでしょうか?私はそうは思いません。事故物件にも新たな価値を生み出す方法があると考えています。

 カチモードは、事故物件のオーナーや管理会社を支援する不動産コンサルティング会社です。中でも「オバケ調査」は、科学的な手法を用いて物件を検証し、最適な運用方法を提案する独自の取り組みです。調査では、映像記録、音声録音、電磁波測定、温度・湿度測定などを行い、物件にまつわる不安を可視化します。

 カチモードでは、事故物件に新たな付加価値を持たせることで「ただ家賃を下げるしかない」という固定観念を打ち破り、不動産としての可能性を広げていきたいと考えています。

――事故物件を「安いから」と借りる人はいると思いますが、オーナーさんにとっては、それこそ死活問題ですよね。そのような活動をするに至った経緯はどういったものだったのでしょうか?

児玉:2007年から15年間、不動産の管理会社に勤めていたのですが、2008年に起きたリーマンショックをきっかけに日本の不動産も色々と状況が変わりました。それまでは不動産にどっぷり浸かった人や地主さんが不動産を運用することが多かったのですが、その頃から不動産投資を始める一般の方が増えてきたんです。

 その流れの中で、買いたい人はたくさんいるのに不動産が少なくなったという時期がありました。これは僕の主観なんですが、その流れを感じた不動産のオーナーさんたちが、「今なら売れるかもしれない」と、塩漬けになっていた不動産を売りに出し始めたと思うんです。買い手がいないと諦めていた、開かずの間みたいな物件ですね。

 不動産の売買には仲介業者が入るのですが、仲介業者は不動産の良し悪しにあまり詳しくないので、僕達のような管理会社に相談するわけです。仲介業者とのやり取りの中で、たくさんの物件を扱うことになるのですが、その中で不思議な物件に出会うことが何度かありました。

「告知事項あり。」の裏側ーー事故物件に新たな価値を生み出すカチモードの挑戦
(画像=画像はUnsplashのAndre Benzより,『TOCANA』より 引用)

 また、管理会社に勤めていた間、もちろん人が亡くなった物件に関わることも多くあったのですが、そういった部屋を持つオーナーさんたちからは度々「児玉さん、こんなに部屋を綺麗にして、亡くなった人の痕跡は一つもないのに、どうして定価で貸せないの?」といった指摘を受けました。そして、このオーナーさんたちの気持ちが2008年から15年もの間、変わっていないことに気がついたんです。

 当時は不動産売買や管理する会社を立ち上げようと考えていた時期でもあったのですが、「事故物件をしっかり調査することでオーナーさんたちを助けることができるんじゃないか?不動産の価値を戻すことができるんじゃないか?」と思い、それまで考えていた独立のプランを一旦白紙にして立ち上げたのが「事故物件の価値を戻す」カチモードです。

――オーナー目線の価値ももちろんですが、しっかりと調査することで亡くなった方のご遺族からの印象も変わったりするのではないでしょうか?

児玉:詳しくは本のあとがきにも書いたのですが、僕自身、いろいろな調査を経て気付いたことがあります。これは日本人特有なのかもしれないですが、自分と亡くなった人に距離感を測るんです。僕は心の距離と呼んでいますが、亡くなった人が赤の他人だとどうしても気持ち悪く感じてしまう。でもこれが例えば歴史上の人物が幽霊となって出てくるとなると距離感が突き抜けて興味に変わりますし、これが家族・友人となると、距離感は近づいて「会いたい」となるんです。

 オバケ調査では、亡くなった人が単なる赤の他人ではなく、そこには家族に愛された一人の人間のドラマがあったということを伝えて、どうしても湧いてしまう気持ち悪さを軽減したり、亡くなった人に親近感を持ってもらえたりしたらいいなとも思っています。

――事故物件=幽霊というイメージが強い人が多いと思うのですが、心霊現象以外の理由により事故物件と呼ばれるようになったものもあるのでしょうか?

児玉:管理会社に15年勤めていた間、不思議な物件は数多く見てきましたが、実は不思議な現象の原因はオバケだけじゃないんです。例えばウォーターハンマー現象(※)などによって、ノックのような音が鳴ったりしてしまうことで、「この部屋は怖い部屋だ」と認識されてしまうこともあります。そういったことも起こり得るので、カチモードでは不思議な現象=オバケと定義して、心霊調査という名前は使わず「オバケ調査」という名前にしています。

※ウォーターハンマー現象:水道管内の圧力が急激に変化することで発生する衝撃音