硬すぎる石は、大きな力を加えられた際に割れやすいという欠点がある一方、骨はある程度のしなりで力を逃がすことができるため、ハンマーや掘削のような大振りの作業に適していたと考えられるのです。
つまり、硬い石は“鋭さ”を、柔らかい骨は“しなやかさ”や“粘り”を生かした用途に使われたのであって、「硬さ」だけで道具の役割を決めているわけではありません。
それぞれの素材特性に合わせて道具の使いどころが分かれていたと考えると、石と骨がどちらも活躍できた理由がよくわかります。
いずれにせよ、150万年前という早い段階で「骨を石器同様に打ち欠く」加工技術が定着していたのは、人類の柔軟な発想を裏付ける重要な証拠です。
他の遺跡を詳しく再調査すれば、骨器は思いのほか広範囲に普及していた可能性があります。
たとえば、中期更新世のヨーロッパ(およそ40万~25万年前)に現れる骨製手斧との関連や、アフリカからユーラシア各地へ骨加工技術が波及したかどうかなど、多くの興味深い問題が浮上しています。
もし世界各地の化石資料を改めて精査すると、今回のような骨の加工痕が続々と見つかり、「骨器時代」が私たちの想像以上に長く、多様な形で続いていたシナリオも考えられます。
石器ばかりに依拠してきた従来の人類史は、こうして大きく変わるかもしれません。
はるか昔から骨という素材が主要な道具の地位にあったとすれば、人類の文化・認知の進化を考えるうえで、新鮮な視点を提示してくれるでしょう。
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元論文
Systematic bone tool production at 1.5 million years ago
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08652-5
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。