研究チームは、65歳から74歳の楽器未経験の高齢者27名を対象に、無作為に音楽セッションに参加するグループと、通常の生活を続ける対照グループに分けました。
音楽セッションに参加するグループは、16週間にわたって毎週90分のグループレッスンを受けました。
レッスンでは、電子ドラム、電子ベースギター、電子キーボードの中から好きな楽器を選び、講師がピアノで伴奏するのに合わせ、参加者はそれぞれ簡単な演奏をするように指示されています。
初心者向けの指導が行われ、最初の1カ月は簡単な童謡からスタートし、最終的には「Let it Be」「上を向いて歩こう」などの曲をバンド形式で演奏しました。
16週間の介入前後で、認知機能と心理状態の変化を測定しました。
その結果、音楽セッションに参加したグループでは以下の改善が見られたのです。
・認知機能が有意に向上
・言語性記憶(耳で聞いた情報を記憶しておく能力)が向上
・気分の活気・活力スコアが向上
一方、対照グループではこれらの指標にほとんど変化が見られませんでした。
特に、楽器未経験者でもわずか16週間のグループセッションで認知機能が向上したという点は、非常に重要な発見です。

今回の研究で、楽器未経験の高齢者でも定期的な音楽セッションに参加することで、脳の健康を維持し、気分を向上させる効果があることが示されました。
特に、グループ演奏という形態が重要であると考えられます。
個人で楽器を演奏する場合とは異なり、グループでの演奏は他者との協調やコミュニケーションが求められるため、より多くの脳領域が活性化すると考えられます。
これは健康寿命を延ばすための新たなアプローチとして、非常に有望です。
今後の研究では、音楽セッションの神経生理学的なメカニズム(脳の変化)をMRIなどで詳しく解析することが期待されます。
また、より長期間の介入が可能か、どのような曲や楽器がより効果的かについても検討する必要があるでしょう。