遠からず示されるだろう「米露主導の和平案」でも、ウクライナが領土の割譲を強いられることは、ほぼ確実だ。それ、おかしくない? ウクライナの主権に対する侵害を止めるために、戦争を続けてきたんじゃなかったっけ?

これは看過してよい問題ではなく、私たちはウクライナか、「あらゆる主権国家一般」か、どちらかを切り捨てるよう迫られているのかもしれない。

実はそもそも、プーチンの言い分に従えば、ウクライナは主権国家ではない。開戦当初は、そんな「妄言」は無視するのが西側のコンセンサスだったが、いまやそうも行かないのが現状だ。

上記の年表を作る際に参照した、ソ連史研究の泰斗である下斗米伸夫氏の『プーチン戦争の論理』に、重要なことが書いてある。一言でいうと、ソ連邦が正式に消滅する目前の1991年冬、CIS(独立国家共同体)が結成されて以来、ロシアとウクライナはずっと同床異夢だったという指摘だ。

ロシアがCISのなかに求めたのは、旧ソ連諸国における後継国家、さらには「リーダー」としての役割であった。ところが、ウクライナやモルドバといった独立国は、CISを「旧ソ連地域の各国が、ロシアと円満に離婚(文明的離婚)するためのもの」と考えた。……この温度差が様々な摩擦や軋轢を生み、現在のウクライナ危機のような複雑な関係をもたらすに至った。

177頁(強調は引用者)

要するにCISがソ連に代わる「新会社」なのか、単なる「清算事業会社」なのかで、認識が正反対にズレていたわけだ。もしCISがソ連の後継国家なら、これは大変なことで、そもそもウクライナは最初から完全な主権国家ではなく、いま起きているのはCISの「内戦」に過ぎないことになる。