それでも、多数の人が「赤」や「青」をどのように感じ、互いにどれくらい類似していると考えているかを客観的に比較できるようになった意義は大きいといえるでしょう。

さらに、こうした「無条件(unsupervised)なマッチング」を行う解析手法は、色だけでなく、たとえば音や味、感情、概念の類似度といったさまざまな感覚・心理領域にも応用できると期待されています。

「甘味」や「恐怖」といった感覚の空間を同じ理屈でマッピングすれば、「私が感じる甘さ」と「あなたが感じる甘さ」が、どの程度似ているかを構造的に比較できるかもしれません。

一方で、色覚が異なる人同士の主観的世界が、具体的にどのように食い違っているのかを解明するには、まださらなる個人レベルのデータ収集や精緻なモデル化が必要です。

集団としての構造が異なるという事実は示されましたが、個々の「赤」に対する感じ方がどう統合されるのかは未知の部分も大きいからです。

また、「似た構造を共有している=完全に同じ感覚」とは限りませんから、主観の究極的なプライベート性にどこまで迫れるかも、依然として議論が残るところでしょう。

それでも、今回の結果は、典型的な色覚を持つ人同市では「私の赤」と「あなたの赤」がほぼ同じ可能性が高く、色覚特性が違う人ではまったく別次元の体験をしているかもしれない、という点を鮮明に示した大きな一歩です。

今後「構造のマッチング」という方法論がさらに洗練されれば、私たちの主観世界を“科学的に可視化して比べる”ことが、より当たり前の未来になるかもしれません。

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元論文

Is my “red” your “red”?: Evaluating structural correspondences between color similarity judgments using unsupervised alignment
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112029