強豪私立高サッカー部にとっても、授業料無償化のメリットは大きい。学校内予算から捻出されるサッカー部活動に伴う費用の拡充が期待でき、用具や遠征費用の負担も軽減される可能性がある。これによって、より多くの生徒が経済的な心配がなくサッカーに打ち込める環境が整備されることに繋がるだろう。
加えて、学校の予算に余裕ができれば、より多くの指導者の確保や育成にも力を入れやすくなる。この結果、より質の高い指導を受けられる環境が整備され、さらなる競技レベルの向上という好ましいサイクルが期待できる。選手獲得のみならず、練習環境においても、私立高と公立高の差は開く一方となるのではないだろうか。

競技レベルが上がる一方、多様性が失われる懸念も
高校無償化が育成の場に与える影響は、長期的にはJリーグや日本代表レベルにも波及する可能性もあるだろう。強豪私立高サッカー部がさらに強化されれば、高校年代での競技レベルが上がり、プロ選手輩出数が増えるのではないか。
しかし一方では、公立高や地方高にいる“隠れた才能”の発掘が減少し、「自宅から近い」という理由のみでサッカー界では無名に近い学校(神奈川県立逗葉高等学校、神奈川大学)に進んだ日本代表MF伊東純也(スタッド・ランス)のシンデレラストーリーのようなケースは減り、多様性が失われる懸念もある。
結論として高校無償化は、高校サッカー界の競技環境に大きな変動をもたらす可能性がある。特に強豪私立高サッカー部ではさらなる強化が進み、公立校との格差拡大が生まれるだろう。
サッカー少年やその保護者の経済的負担が軽減され、サッカーに注ぎ込む投資の増加というポジティブな側面が期待できるものの、新約聖書の一節で“マタイの法則”とも呼ばれる「富める者はますます富み、貧しき者は持っている物でさえ取り去られる」といった現象が現実となる格差社会が生まれる未来を危惧しないではいられないのだ。