さて現実に戻って、ゼレンスキーのキャラクターについて光を当ててみると、2019年の大統領当選時は、当選に導いた映画の中と同じく気弱で実直なイメージでプーチンと対話によって問題解決を図る公約の実行を試みたが、アゾフ大隊に象徴される国内反対勢力に阻まれ支持率維持等のために方針転換。今回のウクライナ戦争でも開戦前夜の時期にバイデンに対して「そんなに煽らないでくれ」と要望していた(その後、バイデンの「警告」通りロシアは侵攻した)。

トランプはゼレンスキーをそこそこ成功したコメディアンと呼んだが、往時の映像を見ると、寸劇や歌やダンスを器用にこなし才気が感じられた。役を与えられたら役に成り切るタイプで、今の戦時大統領も地のキャラクターを自然に消して、役と一体化している印象を受ける。

暴露されている噂が全部本当ではないだろうが、旧ソ連国の例に漏れず少なからず不正蓄財はしているだろう(仮になければ夫人の高級ドレス等が問題にされる)から、「救国の英雄」のイメージの定着を図る前に権力の座から降りたら、亡命以外で平穏に暮らすことは難しいのではないか。

一方、今回の準主役となったJD・ヴァンスについて述べれば、検閲等が罷り通る欧州の民主主義の現状に対して、欧州各国代表に向かって公開説教(2月14日ミュンヘン安全保障会議での演説)を行い、リンカーンの「人民の人民による人民のための政治」ばりに民主主義の基礎の基礎を滔々と教え諭す姿が保守界隈で評価されて株を上げ、次期大統領候補の筆頭と見做されつつあった。だが、直接的にはヴァンスが割り込むような形が切っ掛けで始まった今回の口論により、今後のウクライナ停戦の帰趨如何では、評価を大きく下げる可能性はある。

何れにしても、今回のウクライナ停戦先送りによって、玉突きでその後のイベントにも影響が生じる。予想される大きな要素は、直接間接で習近平が絡んでくる余地が広がった事だ。