調査にあたってはまず、イソツルヒゲゴカイからL-Cryの遺伝子を取り出し、昆虫細胞(秋ヨトウムシ:Spodoptera fragiperda)の細胞に組み込んで大量に生産させました。
そしてクライオ電子顕微鏡を使ってL-Cryを観察し、さまざまな光に対してどのように反応するかを調べました。
すると興味深い事実が判明します。

植物などのクリプトクロムは太陽の光が当たると2量体という2つセットになった構造をとります。
2量体になることでクリプトクロムは転写調節などさまざまな仕事を開始します。
しかしL-Cryは太陽の強い光が照射されると、2量体だったものが単量体へと分解するという、逆の現象を起こしたのです。
そして単量体に分解したL-Cryを2量体に戻せるのは、月の光のような非常に弱い光だけであることが判明します。
また月の光にあてられると、2量体となったL-Cryの片方だけが活性化することも明らかになりました。
植物のクリプトクロムは太陽の光にあたると、2量体となった両方が活性化しますが、イソツルヒゲゴカイのクリプトクロム「L-Cry」は活性化の方法も非常にユニークなものと言えるでしょう。
月の光で2量体になり片方だけが活性化するという仕組みが、イソツルヒゲゴカイが月の光だけを検知するのに役立っているのです。
また研究者たちは、同様の仕組みが月の周期に従う動物たちの多くに生じている可能性があると述べています。
もしクリプトクロムに月光を検知する仕組みを解明できれば、人間をはじめとした地球上の多くの「生命と月の関係」をより詳しく知ることができるでしょう。