夜空に輝く月。

私たち人間にとってはロマンティックな存在かもしれませんが、海で生活する環形動物「イソツルヒゲゴカイ(Platynereis dumerilii)」にとっては、生殖のタイミングを知らせる重要な信号です。

この小さな生き物にとって、生殖は人生で一度きり。

だからこそ、その大切な瞬間を逃さないために、彼らは月のリズムに合わせて動くのです。

では、どうやって海中のこれらの生き物は、月が最も明るい夜を知るのでしょうか?

ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(JGU)が発表した研究によって、この小さな生物たちが強い太陽の光に惑わされず、柔らかな月の光を感知するための興味深い仕組みが明らかになりました。

研究内容の詳細は2023年10月『Nature Communications』にて公開されています。

目次

  • 月あかりに照らされた「死の舞踏会」
  • 月の光だけを認識する特殊な仕組み

月あかりに照らされた「死の舞踏会」

月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明!
月の光だけを検知できる生物の特殊な光システムを解明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

満月が僅かに欠けはじめた夏の暑い夜、それは起こります。

海洋に生息する「イソツルヒゲゴカイ(Platynereis dumerilii)」は生殖時期になると、消化管を退化させて「食」を捨て、全身に精子と卵子を蓄積させて、全身の筋肉を強化されます。

少し前までは、数センチほどの生命体だった彼らは、今や泳ぐ精子タンクあるいは卵子タンクとなって、海面まで浮上していき、オスとメスは「結婚のダンス」を踊りながら、体内に詰まった精子と卵子を海中に放出します。

彼らのニョロニョロとした細長い体を気にしなければ、まるで月明かりに照らされた舞踏会と言えるでしょう。

しかしイソツルヒゲゴカイたちは変身過程で消化管を二度と使用できないほど委縮させてしまっており、月明かりの舞踏会は出席者全員の死と共に幕を閉じます。