詳しく見ていきましょう。

どんな条件でボールは重力に逆らうのか?

ボールが坂を上るような錯覚は、坂道がより急な傾斜に挟まれている場合によく起こります。

例えば、緩やかな上り坂が急な下り坂の間にあると、本来の傾斜よりも下っているように見えてしまうのです。逆に、緩やかな下り坂が急な上り坂に挟まれていると、上り坂のように感じてしまいます。

錯視が起きやすい坂の模式図。緩やかな坂が、同じ向きを持つ急な坂に挟まれた構造。緩やかな坂と急な坂が交わる点は、凹型の場合「窪み(sag)」、凸型の場合「頂点(crest)」と呼ばれる。/Credit:”Slope Illusion (Magnetic Hill) in Radan”,Akiyoshi Kitaoka(2015)

下の画像は日本の代表的なグラビティヒル、香川県高松市の屋島にある有料道路の一部です。ここでは坂道の錯覚が顕著に見られます。

ここでは手前の道は下り坂に見え、奥のバスが走る道路は緩やかな上り坂に見えます。

しかし、実際は手前が緩やかな上り坂であり、バスが走っているのはかなり傾斜がきつい上り坂です。

錯視を起こしやすい坂道を高い位置から見た場合の略図(左)高松市のグラビティヒル(右)/Credit:”Slope Illusion (Magnetic Hill) in Radan”,Akiyoshi Kitaoka(2015)

この図と同じような状況が起きているため、下の動画のボールは重力に逆らって下り坂をこちらに向かって転がってくるように見えるのです。

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Credit: Phenomenal Travel Videos

このような錯覚は、視覚がどのように空間を認識するかによって引き起こされます。

イタリアのパドヴァ大学に所属するパオラ・ブレッサン(Paola Bressan)らによる2003年の研究では、人間の目は水平線を基準にして傾斜を判断することが示されています。つまり、水平線の位置が通常より高く見えると、実際には水平な道が「下り」に見え、逆に水平線が低く見えると、下り坂が「上り」に見えてしまうのです。

左の図を見ると手前の坂が下り坂に見えるが、実際(右の図)には上り坂である
左の図を見ると手前の坂が下り坂に見えるが、実際(右の図)には上り坂である / Credit: Akiyoshi Kitaoka 2008 (May 12)