この錯覚は縦断勾配錯視と呼ばれており、交通渋滞が発生するサグ部という下り坂から上り坂へ変化する場所でも生じていると言われています。

さきほど紹介した日本の香川県高松市の坂道の他に、グラビティヒルは世界各地で報告されています。

アメリカのペンシルベニア州には「マグネティックヒル」と呼ばれる場所があり、ここでは車をニュートラルにすると、まるで見えない力に引っ張られるかのように坂を上っていくように見えます。

地元では超常現象や磁場の影響といった説が語られることもありましたが、現在は科学的にはこれは典型的な錯覚によるものであることが証明されています。

こうした錯覚を利用したアトラクションも存在します。

日本の観光地にもたまにある、室内が傾いた構造のミステリーハウスがその典型的な例です。

島根県の匹見ミステリーハウス/Credit:しまね観光ナビ

まっすぐ立っているはずなのに体が斜めに傾いて見えるこうした家は、グラビティヒルと同じ錯覚の原理を利用したものです。

こうした錯覚の作用があまり理解されていなかった時代には、この現象が誤解され、重力異常や宇宙人の存在を示す証拠として議論されたこともあります。

特に20世紀初頭には、一部の科学者や研究者が「この場所には未知の重力の歪みがあるのではないか」と真剣に考察していた時期もありました。

しかし、測定技術が発達した現在では、これらが視覚錯覚によるものであることが明確に説明されています。

グラビティヒルは脳の錯覚によるもの

グラビティヒルの正体は、視覚による誤認が原因です。周囲の環境によって水平線の位置がずれて見えたり、坂道の角度が誤認されたりすることで、実際とは逆の傾斜を感じてしまうのです。

つまり、「坂道をボールが上る」のは、重力の異常ではなく、私たちの脳が作り出した錯覚なのです。

次にグラビティヒルを訪れる機会があれば、この仕組みを思い出しながら、ぜひ自分の目で確かめてみてください。あなたの脳は、この「重力のいたずら」にどう反応するでしょうか?