ただ、多くの人にとっては言葉だけではイメージしずらいかもしれません。

そのためまずは、原始的な情報伝達法を例に仕組みを考察します。

情報を一瞬で伝える方法として最も原始的なのものは、長い板や棒を使ったものでしょう。

例えば細長い板を使う場合、獲物となる鳥が見えない時に裏、見えるときに表という取り決めをしておけば、監視者(送信者)は鳥があらわれたことを、離れた場所にいるハンター(受信者)に素早く静かに知らせることが可能になります。

この通信方法を少し小難しく考えると、背後には送信者側が表なら受信者側も表という「一方が〇〇ならばもう一方は〇〇」という決まった関係が存在することに気付くでしょう。

量子もつれでは、この「一方が〇〇ならばもう一方は〇〇」という決まった関係を細い長い板の端と端ではなく、2つのもつれ関係にある粒子の間で形成します。

1つの2つがもつれ状態にある2つの光子に分割されます
1つの2つがもつれ状態にある2つの光子に分割されます / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

たとえば光を特殊なクリスタルに入れて分割すると、一方が縦揺れでもう一方が横揺れという状態を作る、2つのもつれた粒子を作れます。

ただこのとき縦揺れと横揺れの光が左右どちらに行くかといった情報は観察されるまで宇宙には存在しません。

存在するのは「一方が縦揺れならばもう一方が横揺れ」という関連性のもつれを繋ぐ見えない糸だけです。

この奇妙な現象を、男女の恋人のうち1人が北海道、もう1人は九州に行く場合で考えます。

すると「一方が男であるならば、もう一方が女になる」という決まりだけが見えない糸として存在しており、北海道と九州に存在している人は、観測されるまで性別の情報が宇宙に存在せず、男でも女でもない状態で存在していることになります。

人間を例にとると奇妙さが際立ちますが、日常の常識が通じない量子の世界ではこの理解のほうが正しいのです。

しかしこれはまだ序の口に過ぎません。

観察するまで宇宙に情報が存在しないというと「眉唾」ぽっぽく思えますが、数多くの実験結果がその解釈が正しいことを示しています
観察するまで宇宙に情報が存在しないというと「眉唾」ぽっぽく思えますが、数多くの実験結果がその解釈が正しいことを示しています / Credit:Canva . ナゾロジー編集部