おそらく、女性が訴えていた腹痛は、腹腔内で大きくなった胎児が周りの臓器を圧迫していたからだと考えられます。
胎児は羊水の入った羊膜に包まれており、へその緒もつながっていて、正常に発育しているようでした。
また通常は子宮内にできるはずの「胎盤」も胎児とともに腹腔にあり、女性の背骨の付け根近くの腹部内壁に付着していたようです。
これは一体どういう状態なのか?
医師によると、女性の身に起こっていたのは「子宮外妊娠」という稀な現象でした。
極めて稀な「子宮外妊娠」の中でもレアケースだった
子宮外妊娠とはその名の通り、受精卵が通常の子宮内膜ではない場所に着床し、そこで胎児が発育してしまう現象であり、正式な医学用語では「異所性妊娠」といいます。
普通とは何がどう違うのかをわかりやすくするために、まずは正常な妊娠のプロセスを見てみましょう。
正常な妊娠では、精子が子宮頸管から子宮を通って卵管へと進み、卵巣から出された卵子と出会って受精します(下図を参照)。
受精は子宮内で起きると認識している人が多かもしれませんが、通常、受精は卵管で起きるのです。
受精卵になれるのはたった1個だけで、その後、受精卵は卵管から子宮へと戻っていき、子宮内膜に定着します。
これが「着床」です。
着床後は10日ほどで妊娠の反応が出て、胎児の発生が始まります。
また同時に、子宮上部に「胎盤」という円盤状の器官ができて、胎児と一緒に成長しながら、酸素や栄養分を送ったり、老廃物を取り除いたりします。
このまま順調に発育が進めば、妊娠37〜41週の正産期で元気な赤ちゃんが生まれます。
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受精卵が「卵管」に着床してしまう?
ところが子宮外妊娠では、受精卵が子宮まで戻ることができずに、それ以外の場所に着床してしまうのです。
最も多いのが「卵管」で、子宮外妊娠の約95%が卵管への着床となっています。