イギリスは清にアヘンを送る代わりに紅茶を輸入して、国内市場で大量販売します。

記録によると、18世紀末までには極めて貧しい農民でさえ、1日に2回紅茶を飲むようになっていたそうです。

18世紀後半にイギリスの庶民にも紅茶が普及
18世紀後半にイギリスの庶民にも紅茶が普及 / Credit: QMULOfficial – The history of tea in Britain(youtube, 2015)

そしてアントマン氏は、1785年以降の紅茶の普及により、各教区の死亡率がどう変化したかを分析。

その結果、イングランド全土の教区で死亡率の減少が確認されましたが、特に水質の悪い教区では水質の良い教区に比べて、死亡率が18%も低下していたのです。

これは水質の悪い教区に住む人々が汚染された水の煮沸をして、安全な水を飲むようになった成果が出ていることを伺わせます。

加えて、赤痢のような下痢性疾患による死亡者数と、結核のような空気感染による病気の死亡者数を比べてみました。

すると、結核の死亡者数は1785年の前後で変化がなかったのに対し、下痢性疾患の死亡者数は1785年を境に急激に減少していたのです。

これは要するに、衛生環境や医療技術が向上したわけではなく、ただ紅茶を飲むために水を煮沸することが図らずも下痢性疾患をピンポイントで減少させ、それが死亡率の低下につながったことを示唆しています。

しかし当時のイギリス人はそんなことはつゆ知らずに、流行りの紅茶を楽しんでいただけなのでしょう。

アントマン氏は発展途上国の問題にも取り組む研究者であるため、単に人々の日常の楽しみが増えただけで、時として、明示的な医療の介入よりも人々の健康に効果をもたらすという可能性の発見は、目からウロコだったようです。

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参考文献

How Britain’s taste for tea may have been a life saver
https://www.bbc.com/future/article/20231215-how-britains-taste-for-tea-may-have-been-a-life-saver