つまり紅茶が普及すれば、人々は自然と煮沸された安全な水を飲むことになり、赤痢も減少すると考えられるのです。

そこでアントマン氏は18世紀イングランドにおける人口統計データをもとに分析を行いました。

紅茶の普及後に死亡率が減少!「水の煮沸」が最大の要因

アントマン氏はまず、18世紀後半のイングランド全土の400以上の教区を対象に、推定される水質の良し悪しを教区ごとに割り当てました。

水質の推定については、その教区の水の供給源が多ければ、より清潔な水が得られると予測。

さらに川に近い教区あるいは川の上流に位置する教区は、川から遠かったり、川の下流に位置する教区よりも安全な水が得られると予測。

反対に、水質の悪い地域は水の供給源が少ないことや川の下流に位置することに加え、人々の移住の度合い(ある水源で汚染が発生した場合、人々は他の教区に移動する)などで予測しました。

このデータには、イギリスの著名な人口統計学者であるE・A・リグレーとR・S・スコフィールドが収集した1541年から1871年までのイングランド全土の教区の記録を使っています(The Population History of England 1541–1871)。

死亡率減少の要因は「紅茶の普及」なのか?
死亡率減少の要因は「紅茶の普及」なのか? / Credit: canva

そしてこの調査の境界線となるのは、大多数のイギリス人にとって紅茶が突然手頃な価格となった1785年です。

実はそれ以前、紅茶は富裕層のみが嗜める高価なものであり、労働者階級や貧困層には全く浸透していませんでした。

その原因は紅茶にかけられた高すぎる課税にありました。

しかし1784年の租税改革法(Commutation Act 1784)により、茶葉に対する課税は119%からわずか12.5%に下げられ、紅茶の消費量が爆発的に増加します。

これは当時、借金の増大に苦しんでいたイギリス東インド会社を救い、清(中国)との貿易を活発化させるための処置でした。