以下は論文に書かれている結論を引用したものになります。

この研究では、抗うつ薬の現在の使用は認知機能の低下を早めることに関連しており、さらに、SSRIの処方量が多いほど、重度の認知症、骨折、全死亡率のリスクが高くなることが示されました。これらの結果は、認知症患者におけるさまざまな抗うつ薬の使用のリスクと利点を評価するために、注意深く定期的にモニタリングすることの重要性を強調しています。

一方で注意点もあります。

今回の本研究はあくまで相関研究であり、直接的な因果関係を証明したわけではありません。

例えば、認知症が進行している重症患者では、もともと行動・心理症状が顕著なため、SSRIが選択されやすいというバイアスも考慮する必要があります。

なお、今回の研究で検討されたSSRIは一部に過ぎず、他のSSRI全体に同様のリスクが当てはまるとは限らないため、全てのSSRIを一括して危険と断定するのは慎重であるべきです。

(※日本で処方されている主なSSRIは、研究で調べられたものに加えてプロザック(フルオキセチン)、パキシル(パロキセチン)、ルボックス(フルボキサミン)などが知られていますが、それらについては研究では触れられていません。)

ですが、これまで「副作用が少なく高齢者にも使いやすい」とされてきたSSRIが、認知症患者の知能低下を加速させるかもしれないという警鐘を鳴らした点で、この研究の意義は大きいでしょう。

(※なお本研究では、もう一つの主要な抗うつ薬クラスであるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)については、明確な認知機能低下との関連は確認されませんでした。)

研究チームは、「今回の結果を踏まえ、SSRIやその他の抗うつ薬がどの程度認知症進行に影響するのか、さらなる検証が必要だ」と強調しています。

急速な高齢化が続く日本においても、本研究結果は大きな影響を与えると考えられます。