スウェーデンの医科大学・カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)による研究によって「安全なはずの薬が、かえって認知症患者の“知能低下”を進めているかもしれない」——そんな衝撃的な結果が報告されました。

研究では認知症と診断された約1万8,740人を対象に、抗うつ薬が患者の認知機能(MMSEスコア)の低下や死亡リスクなどに与える影響が分析されています。

その結果、特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる種類の3種類の抗うつ薬、すなわちセルトラリン(セレクサ)、シタロプラム(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)では、認知機能の低下スピードが加速し、骨折や死亡リスクも上がる可能性が示唆されました。

研究内容の詳細は『BMC Medicine』にて発表されました。

目次

  • 認知症患者で「SSRI」と「知能低下」が相関している

認知症患者で「SSRI」と「知能低下」が相関している

一部の抗うつ薬「SSRI」は認知症患者の知能低下を加速させる可能性がある
一部の抗うつ薬「SSRI」は認知症患者の知能低下を加速させる可能性がある / Credit:Canva

SSRIは、脳内の情報のやり取りを担う神経伝達物質であるセロトニンの量を増やすお薬です。

脳はセロトニンを使って気分ややる気を調整していますが、うつ病ではしばしばこのセロトニンの不足が発生します。

そこでSSRIはセロトニンが再び吸収されるのを防ぐことで、より多くのセロトニンが脳内に残るようにし、うつ病などで気分が落ち込む症状が改善される効果が期待されています。

SSRIは旧来の抗うつ薬(三環系)などと比べ、副作用(抗コリン作用や心血管系への影響)が少ないとされ、高齢者にも比較的安全と言われてきました。

そのため、世界各国の臨床ガイドラインでは、うつ病治療の第一選択薬としてSSRIが推奨されることが多く、処方率が高まる要因になっています。

実際、欧米をはじめ多くの国で、高齢者への抗うつ薬処方のうち半数超がSSRIに及ぶという報告があります。