今回の研究でも、調査対象となった認知症患者における「抗うつ薬の処方」のうち、64.8%がSSRIでした。

これほどまでに普及している背景には「比較的安全である」という認識があったと言えます。

しかし今回、これまでの安全神話を覆しかねない結果が得られました。

新たな研究では、スウェーデンで2007年から2018年に新たに認知症と診断された方々(平均年齢78歳)約1万8,740人の「抗うつ薬の処方」と「認知機能の変化(MMSEスコアの推移)」が追跡されました。

結果、抗うつ薬を全く使用していない群(非使用群)と比較し、抗うつ薬全体を使用している患者群では、年間でMMSEスコアが平均0.30ポイント余分に低下していることが判明しました。

さらに、特に3種類のSSRI「セルトラプラン(セレクサ)、シタロプラム(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)」の使用者では、その影響がさらに顕著で、非使用群に比べ年間で平均0.39ポイントの追加低下が観察され、SSRIが認知機能低下を加速させるリスクが示唆されました。

個別のSSRIでは、

  • セルトラリン(商品名はセレクサ): −0.25ポイント/年
  • シタロプラム(商品名はジェイゾロフト): −0.41ポイント/年
  • エスシタロプラム(商品名はレクサプロ): −0.76ポイント/年

との結果が得られています。マイナス分は抗うつ薬を飲んでいない人との比較になります。使用された認知機能テスト(MMSE)は30点満点で、一般的には24点以上が正常とされており、健常者と比べてエスシタロプラム(レクサプロ)の年間0.76ポイントの追加低下は特に注目されます。

また、高用量SSRIが使用されている場合では、重度認知症に悪化するリスクが最大で35%高く、全死亡リスク(あらゆる死因によるリスク)も18%高く、骨折リスクも25%高くなっていました。

以上の結果は、これら3種類のSSRIの使用者はそうでない人よりも知能低下が進みやすい傾向が見られ、骨折リスクや死亡リスクも上昇していることを示しています。