また、iPS細胞だけでなく、すでに分化を終えた皮膚の線維芽細胞でも、余分な染色体を取り除く結果が得られたのです。

これは「細胞分裂が活発な細胞に限らず、成熟した細胞でも染色体の数を変えられる」という点で、大きな驚きと可能性を示唆しています。

また余分な21番染色体を取り除いた細胞を詳しく調べると、遺伝子がどのように働いているかを示す「遺伝子発現パターン」や、活性酸素の処理能力などが、通常の細胞と同じような状態へと近づいていることがわかりました。

ダウン症の細胞では、本来2本である21番染色体が1本余計にあるため、そこに含まれる多くの遺伝子が過剰に働き、結果として細胞の機能に様々な影響を与えます。

しかし、今回の方法でその“余計な1本”が消えたことで、過剰だった遺伝子の働きが調整され、細胞の振る舞いが正常に戻る兆しを見せたのです。

この成果は、将来的にダウン症の根本原因そのものへアプローチする可能性を広げるだけでなく、合併症を予防・軽減できる道筋となるかもしれません。

たとえば、ダウン症の方によく見られる心臓の病気や、成人期にリスクが高まるアルツハイマー病のような神経変性などの問題に対して、病気の進行を遅らせたり、発症を抑えたりできる可能性も考えられます。

さらに、細胞レベルで“正常化”の効果が確認されたことは、臨床応用への重要な一歩であり、「染色体治療」と呼ばれる新しい治療アプローチの実現に向けた大きな期待を抱かせる結果となっています。

ただ実際に医療現場へ応用するには、動物やヒトを対象とした安全性や有効性の検証、効率をより高めるための技術改良など、まだ多くのハードルが残されていることも事実です。

ゲノム編集そのものが持つリスク――たとえば意図しない場所のDNAを切断してしまうなど――を最小限に抑える工夫もさらに必要となるでしょう。

それでも、今回の研究が提示した「染色体を取り除いて細胞を正常化させる」という考え方は、ダウン症にとどまらず、他の染色体異常やがん細胞の研究など、幅広い分野への応用可能性を秘めています。