近年は医療技術の進歩によって、心臓手術などの外科的治療が飛躍的に向上し、ダウン症のある人の平均寿命は伸びてきました。
しかし、21番染色体が多いという根本原因そのものを取り除く方法は長らく存在せず、日常生活の支援や合併症への対処が中心でした。
出生前検査が広く行われるようになった一方で、ダウン症のある人々の数は世界的にも増えつつあり、社会全体でのケアや支援の必要性が高まっています。
こうした中、ゲノム編集技術のひとつ「CRISPR-Cas9」は、DNAを狙った場所で切断できることで、がん研究や遺伝病の治療分野などで注目を集めてきました。
今回の研究は、この最先端技術を応用して「余分な21番染色体を細胞から取り除く」という、大胆かつ根本的なアプローチを試み、ダウン症の治療や理解に新たな可能性を示した点が大きな注目を集めています。
ダウン症の「余分な染色体」の排除でなにが変わる?
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研究グループは、まずダウン症の方の皮膚から採取した細胞を使ってiPS細胞(あらゆる細胞へ分化できる万能細胞)を作製しました。
次に、最先端のゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を用い、余分な21番染色体だけを狙って切断できるように細かく設計された“ガイド”を細胞内に導入しました。
通常、ヒトの細胞には21番染色体が2本ありますが、ダウン症の細胞には3本あるため、研究チームは「3本のうち特定の1本を切り落として細胞から排除する」戦略をとったのです。
実験では、複数箇所を同時に切断するほど除去率が高まり、細胞によってはおよそ4割近い頻度で余分な21番染色体が消えてしまうことが確認されました。
さらにDNAの修復に関わる遺伝子を一時的に抑える処置を加えると、染色体の消去効率をさらに高められることも分かりました。