研究チームは、超伝導回路で作られた5つの「人工原子」を金属線(共振器)と組み合わせ、そこに短いマイクロ波パルスを送り込む実験を行いました。

まず、実験装置を超低温まで冷やして抵抗をほぼゼロにし、量子力学の影響がはっきり現れる環境を整えます。

人工原子それぞれは、外部の調整によってエネルギー状態を変えられるようになっており、自然の原子と比べてはるかに自由度が高いのが特徴です。

パルスを“入り口”から送り込むと、人工原子がそのマイクロ波を吸収し、しばらく後に再び放出する現象が観測されました。

しかも単に一度きりではなく、人工原子たちの振動位相が再び揃う(rephasing)タイミングごとに、周期的にマイクロ波が出てくるのです。

これは、異なる周波数に調整された人工原子同士が協力し合い、吸収したエネルギーを再び共振器へ戻すことで起きると考えられています。

さらに、この“出てくるタイミング”は人工原子の周波数差や結合強度を変えることで自由に制御できることも明らかになりました。

たとえば、周波数のずれを大きくするとマイクロ波パルスの再放出間隔が短くなり、小さくすると長くなります。

こうした結果は、単にマイクロ波を一時的に蓄えるだけでなく、任意のタイミングで放出できる仕組みの存在を示しており、チップ上の超伝導回路だけで「量子メモリ」や「時間制御された光源」が実現しうることを意味します。

迫り来る人工原子の時代

今回の研究で実証された「人工原子を使ってマイクロ波を貯蔵・制御する方法」は、量子メモリの実用化や量子通信ネットワークの構築に向けて、大きな前進となりそうです。

例えば、量子コンピュータ同士をつなぐとき、どのタイミングで光(マイクロ波)を送受信するかを厳密に管理できれば、量子情報を正確にやり取りすることができます。

そうしたネットワークの中継役として、この“光を好きな間隔で取り出せる人工原子”が新たな選択肢になるかもしれません。