さらに、ラジャクマールさんは「心の中で音読する」ことの大切さを説いています。
大きな声を出して読まなくても、自分の脳内で“音”をイメージしながら進めると、速読と記憶を両立しやすくなるのです。
一方、口の動きに気を取られてしまうと、せっかくのイメージづくりが妨げられることも。
あくまで「頭の中で声を出す」ことに集中し、情報をどんどん取り込む感覚を養いましょう。
そして、量が多い情報を覚えるときには、「小分けしてストーリー化する」手法が有効です。
たとえば、長い単語リストや数字の並びを、2〜3個ずつまとめて“ちょっとした物語”に変換してみます。
「ネコがキッチンでラーメンを食べている」「本棚の上をテディベアが飛び跳ねている」など、少し突拍子もないくらいのイメージのほうが、脳には強く残りやすいものです。
すでにご存じのとおり、これを「記憶の宮殿」に配置していけば、さらに強固な記憶として結び付いてくれます。
世界のメモリーアスリートたちが共通して語るのは、「誰にでも記憶力を高めるチャンスがある」ということです。
短い訓練時間でも、場所法やイメージ化のコツを身につければ、普段の生活や仕事、学習をずっとラクにこなせるようになるでしょう。
ラジャクマールさん自身は「もっと多くの人にこの技術を広めたい」と、インドでの記憶力トレーニング施設づくりを目標にしているといいます。
私たちも日々のちょっとした暗記やアイデア整理の場面で、記憶の宮殿を活用していけば、忘れ物が減ったり、新しい知識をぐんぐん吸収しやすくなるかもしれません。
記憶力は特別な才能というよりも、“脳の仕組みを上手に使う”ことで、着実に鍛え上げられるスキルなのです。
これから脳科学の研究が進むにつれて、私たちの記憶の可能性はさらに広がっていくでしょう。
日常的な集中力アップから、学習効率の向上、ひいては高齢化社会における認知機能の維持まで――記憶術がもたらす恩恵は多岐にわたります。