これは、単純に丸暗記をするのではなく、家や通勤路など、自分がよく知っている空間に覚えたい情報を“置く”ようにして記憶するというもの。

イメージで言うと、「頭の中にある家に、一つひとつの情報が入った箱を並べていく」イメージに近いかもしれません。

たとえば、ラジャクマールさんは自分の寝室やキッチン、ベランダなど、日常的にイメージしやすい場所をいくつか設定し、その一つひとつに情報を割り当てるそうです。

もし10個の単語を覚えるなら、2つずつペアを作り、簡単な物語を想像してその場所に配置します。

「玄関に大きなバスケットがあって、そこにリンゴと傘が一緒に入っている」というように、頭の中で“ドラマ”を作るのがポイントです。

2つの単語が組み合わさった印象的な場面を思い浮かべれば、記憶が定着しやすくなるだけでなく、その物語の順番を追うことで、覚えた情報の順序も保ちやすくなります。

場所法が優れている大きな理由は、“空間の記憶”が私たちの脳と深く結びついているからです。

実際、著名な神経科学者であるエレノア・マグワイア氏の研究では、メンタルアスリートの多くが場所法を活用し、その際に脳の海馬(タツノオトシゴにたとえられる形状の部分)が顕著に活動していることがわかっています。

海馬は空間認識と記憶形成の要所とされる領域で、そこを有効に刺激できるのが、この「記憶の宮殿」というわけです。

さらに、この手法の魅力は応用範囲の広さにあります。

膨大な数字や単語を一気に覚えるような競技だけでなく、たとえば英単語を効率的に暗記したい学生さんや、プレゼンのポイントを忘れないようにしたいビジネスパーソンにとっても、大いに使えるテクニックです。

部屋のレイアウトや好きな街の地図、あるいはゲームのステージなど、頭に描きやすい場所ならなんでもOK。

大事なのは、その場所を自分で“しっかりイメージできる”ことと、そこに置く情報を“面白い”もしくは“意外”な形でビジュアル化することです。