当時としても栄養バランスが偏っていたかもしれません。
さらに、この糞石には寄生虫の卵が大量に混ざっていました。
鞭虫(べんちゅう)や回虫(かいちゅう)と呼ばれる腸内寄生虫の痕跡です。
衛生環境が今ほど整っていない時代には、多くの人がこうした寄生虫に感染していたと考えられますが、これほどはっきりと証拠が残るのは珍しいことです。
バイキングの生活を“力強い戦士”というイメージだけで語りがちですが、実際には寄生虫に悩まされながら暮らしていたかもしれないと分かると、一気にリアルさを感じます。
つまり、この巨大な化石化した糞は、1200年前のバイキングがどんなものを食べ、どんな健康状態にあったのかを直接教えてくれる「タイムカプセル」のような存在なのです。
考古学の世界でも、武器や遺構だけでは分からない人々の暮らしぶりを知るうえで、こうした“日常の痕跡”は何より貴重な研究材料といえます。
今も多くの研究者が、このロイズ銀行糞石を通してバイキングの本当の姿を追いかけ続けているのです。
考古学的価値と悲劇的な破壊、そして再生

考古学の世界では、ふだん捨てられてしまう“ゴミ”こそが貴重なタイムカプセルになり得ます。
ロイズ銀行糞石も、よほど特殊な条件がそろわなければ形を保ったまま残ることはありませんでした。
その最大の理由は、発見現場が湿った泥炭層だったことにあります。
一般的に排泄物はすぐに分解されてしまいますが、空気がほとんど通らない泥炭の中では腐敗が進みづらく、結果として糞が「化石化」するに至ったのです。
こうした保存状態の良い“日常の遺物”は、バイキングの人々がどんな生活をしていたのかを直接伝えてくれる、非常に価値の高い資料といえます。
武器や宝物だけでは分からない健康や食生活の実態が浮かび上がるからこそ、学者たちはこの糞石に注目してきたのです。