国際政治において、ある大国が台頭すると、他の国々はそれを抑えるために別の大国と協力する傾向がある。米国がロシアに対して強硬姿勢をとりすぎると、ロシアはより中国と接近し、米国の対中包囲網が崩れる可能性がある。そのため、ロシアとの一定の関係維持や「慎重な対応」は、ロシアを中国の完全な同盟国にしないための抑止策となる。
3. 米国の地政学的戦略と「二正面戦争」の回避米国にとって、ロシアと中国の両方と同時に対立することは大きな負担となる。そのため、ロシアとの敵対関係を緩和し、中国への対抗に戦略的余地を確保することが重要になる。これは「現実主義(Realism)」の視点であり、主要な脅威(=習近平)に集中するために敵を分散させる発想である。
米国の戦略的ジレンマ
米国の覇権が相対的に衰退し、多極化が進んでいるのは事実だ。しかし、軍事力・経済力・技術力において依然として世界のトップに君臨しており、「単独では何もできない」ほど弱体化しているわけではない。ただし、「米国が全てを決め、他国が従う」一極支配の時代は終焉を迎えつつあり、同盟国との協調がより重要になっている。
米国の最優先課題は、「ロシアを封じ込めつつ、中国への対抗に集中する」ことにある。これはバイデン政権であろうとトランプ政権であろうと変わらない基本戦略だ。しかし、ロシアを敵に回せば中国との結束を強めてしまう。ロシアとの適切な距離をどう取るかが、今後の外交のカギとなる。
トランプ政権の政策決定メカニズム
「トランプには長期的な戦略がなく、誰も軌道修正できない」との見方もあるが、これは半分正しく、半分は誤解だ。
確かにトランプはビジネスマン的な発想で動き、イデオロギーにはほとんど関心がない。彼にとっては「ディール(取引)」が全てであり、長期的な戦略よりも短期的な成果を優先する。しかし、それだからこそ、トランプの周囲にいる政策決定者や議会の役割が重要となる。