今回の研究は、昔の海の色が単に違っただけでなく、生物と環境が互いに影響を与え合う複雑なフィードバックの存在を浮き彫りにします。
シアノバクテリアが放出する酸素が鉄を酸化し、海を緑色の光が豊富な状態に変える。
その環境で緑色光を活用できるシアノバクテリアがさらに増え、酸素の生産が一層加速される――いわば「生物の活動が環境を変え、その環境が生物を選択する」というサイクルです。
こうした視点で見ると、大酸化イベント(GreatOxidationEvent、約24億年前)につながるプロセスも、単なる「シアノバクテリアの増殖」だけでは説明しきれない、海洋化学と微生物生態系の相互作用によって推し進められたのではないかと考えられます。
この“緑の海”仮説は、地球外生命探査においても新しい示唆を与えます。
これまで「大気中の酸素」や「メタン」などのガス成分ばかりに注目されがちでしたが、もし惑星の海の色合いが生物活動によって特徴的に変化するなら、そのスペクトル観測は生命のサインを見いだす重要な手がかりになるかもしれません。
実際、NASAのHabitableWorldsObservatory(HWO)などでは、大気ばかりでなく海洋スペクトルを詳細に測定する技術開発が進められています。
地球以外にも「酸化鉄が漂う浅瀬が緑色に染まった惑星」があるとすれば、そこではシアノバクテリア的な生物が光合成を営んでいる可能性も考えられます。
とはいえ、「どれほどの鉄濃度があれば海全体が緑色になったのか」「海のどの深さまで緑色の光が優勢だったのか」など、依然として精密に検証すべき点は残されています。
海洋化学・地質学・生物学といった多様な分野の連携がさらに進めば、太古代の海がいつ、どこまで緑色に染まっていたのか、どのように大気への酸素放出とリンクしていたのかがより明確になるでしょう。
それでも、シミュレーション・実験・現地調査を組み合わせて「昔の海は今とは違う色をしていたかもしれない」という説を強化している点は、とても意義深いといえます。