研究チームは、この“ヒト型NOVA1マウス”と通常の野生型マウスを比較し、脳の構造・神経活動・発声行動など多角的に調べました。
特に注目されたのが「鳴き声」の解析です。
マウスは普段、超音波帯域の鳴き声(超音波ボーカリゼーション)を用いて意思疎通を行うため、人間の耳では直接聞き取れません。
そこで、専用の高感度マイクロフォンと解析ソフトを使い、赤ちゃんマウス(生後約1週齢)が母親から離されたときや、オスの成体マウスが発情期のメスに遭遇したときの鳴き声を精密に録音しました。
これらはいずれも、マウスがストレスや興奮を感じる局面であり、種類や数の多い鳴き声が得られるため、発声パターンの変化を捉えやすい条件といえます。
解析の結果、“ヒト型NOVA1”マウスの鳴き声は、周波数の変動幅が大きかったり、持続時間に複雑な変化が入ったりといった特徴が見られました。
具体的には、単調な音の繰り返しだけでなく、高い音域から低い音域へ急にジャンプするようなパターンの頻度や、音の連続する形態の種類が野生型マウスよりも増える傾向が観察されたのです。
一方で、発声回数や音量には顕著な差はなく、むしろ「鳴き声の質」が変化していると言える結果でした。
また、脳内の遺伝子発現パターンを調べると、NOVA1が制御するRNAスプライシングの一部がわずかに変化しており、この微妙なズレがシナプス形成や神経回路の働きに影響を与えている可能性が示唆されました。
こうした「遺伝子の一部をヒト化してマウスの鳴き声を解析する」というアプローチは、以前からFOXP2遺伝子などでも試みられています。
FOXP2をヒト型に置き換えたマウスでも、やはり発声の質に違いが生じることが報告されており、今回のNOVA1の結果はこれとよく呼応しているといえます。
言語や音声コミュニケーションの進化に関わる複数の遺伝子が、それぞれ微妙に脳の配線や活動の仕方を変えているかもしれない――そうした見方がさらに強まる発見として注目されています。
たった一か所の変異が大きな進化をもたらす
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