ヒト特有の遺伝子を組み込んだマウスが、驚くほど複雑な鳴き声を発するようになった――。

アメリカのロックフェラー大学(RU)で行われた研究によって、脳内のRNA(遺伝子のメッセージ)」を“切り貼り”する働きをもつ遺伝子NOVA1という遺伝子をヒト型に改変したマウスで、周波数の変化や鳴き声のパターンが通常より多彩になる現象が確認されました。

わずか1か所のアミノ酸置換が神経回路やシナプス形成に影響し、“音声コミュニケーション”の複雑化をもたらしている可能性があります。

研究者たちはこのNOVA1について言語遺伝子と呼べるかもしれないと述べています。

こうした結果は、「なぜヒトだけが高度な言語を持つのか?」という進化の謎をひも解く手がかりになるかもしれません。

本記事では、この実験の詳細や背景をわかりやすく解説するとともに、言語遺伝子研究の最前線をご紹介します。

研究内容の詳細は2025年2月18日に『Nature Communications』にて公開されました。

目次

  • なぜヒトだけが言語を巧みに操れるのか?
  • ヒト型遺伝子でマウスの「鳴き声」はどう変わる?
  • たった一か所の変異が大きな進化をもたらす

なぜヒトだけが言語を巧みに操れるのか?

ヒト型遺伝子を組み込んだらマウスの鳴き声が複雑化した
ヒト型遺伝子を組み込んだらマウスの鳴き声が複雑化した / NOVA1タンパク質の197番目のアミノ酸が変化した進化のタイミングと、その変異がタンパク質内でどの位置にあるのかを示すモデル図です。図ではいつこの197番目のアミノ酸の置換が起こったのか、進化の過程でどの段階で現生人類に固定されたのかが示されています。また今回の研究で作られたNova1hu/huマウスが、現代のヒト特有の変異(バリンになっている)を持っている点が強調されています。/Credit:Yoko Tajima et al . Nature Communications (2025)

言葉を巧みに操り、世界中で何千もの言語を駆使してコミュニケーションを行うのはヒトだけです。