また本研究は「ビッグバンの瞬間、なぜ時間が未来へしか流れないように見えるのか?」という謎に、新しい光を当てる可能性があります。
過去向きの矢も同時に存在していたのかもしれない、と想定すれば、私たちが知らない「もうひとつの宇宙や時間の流れ」があった、という壮大なロマンへとつながります。
さらにマルコフ近似の対称的な扱いを応用すれば、量子情報や量子通信で「時間反転」のアイデアを活かす方法が生まれる可能性があります。
実際に「過去へ行く」ことはできなくとも、時間対称性を巧みに利用することで、新たなアルゴリズムやプロトコルが提案されるかもしれません。
このように「2本の時間の矢」という発想は、単なる学術的な好奇心だけでなく、熱力学・宇宙論・量子技術など幅広い分野に影響を及ぼす潜在力を持っています。
「時間とは何か?」「不可逆性は本当に絶対なのか?」という、非常に深遠な問いに対して、私たちは今、物理学の最前線で改めて向き合わなければならないのかもしれません。
全ての画像を見る
元論文
Emergence of opposing arrows of time in open quantum systems
https://doi.org/10.1038/s41598-025-87323-x
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部