しかし、私たちの多くの現実的な現象は、多数の自由度をもつ環境(周囲の空気や物質など)と相互作用してエントロピーが増えやすく、「不可逆」が際立つのです。
それでは、この「エントロピー増大」は本当に時間の矢を決める唯一の要因なのでしょうか?
そして量子力学レベルの仕組みはどうなっているのか?
イギリスのサリー大学で行われた研究により、量子の世界でも時間を意外なほど対称的に扱える余地がある ことが示唆され、その先にはなんと 「2本の時間の矢」 が出現しうる、という興味深い証拠が示されました
本記事では、そうした最新の研究をもとに、「不可逆性」という古くて新しい問題を根本から見直してみましょう。
「時間は本当に一方向にしか流れないのか?」「量子力学とエントロピーはどう結びつくのか?」――身近なイメージからスタートしながら、この不思議なテーマに迫ってみたいと思います。
研究内容の詳細は2025年1月29日に『Scientific Reports』にて公開されました。
目次
- 量子の世界から “2本の時間の矢” が出現する
- 時の迷宮を解く鍵
量子の世界から “2本の時間の矢” が出現する
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開放量子システムとは?
私たちが抱く「量子の世界」のイメージは、電子や光子のような小さな粒子を密閉空間で調べ、外部からの影響を遮断する、というものかもしれません。
ですが、実際には自然界や実験環境で、そうした粒子はほぼ常に周囲の環境とエネルギーや情報をやり取りしています。
このように、周囲とやり取りしながら振る舞う量子系を「開放量子システム」と呼び、これを専門的に扱うのが「開放量子力学」です。
研究者が注目したいのは、多くの場合「系」と呼ばれる対象(例:電子)だけのふるまいですが、実際には周囲の環境(熱浴・他の粒子・背景放射など)との相互作用を無視できません。