加えて、血液中の薬剤代謝物が一定期間しか検出されないという特性から、単発服用の影響やより長期的な使用状況がどの程度かまでは明確に把握できていません。

さらに、母親が熱や感染症などでアセトアミノフェンを服用する理由自体がリスクに影響している可能性もあり、観察研究ではこうした交絡因子を完全に排除できない限界があります。

それでも、自己申告だけに頼らずバイオマーカーを用いて実測した研究は大きな意義があります。

今後は、より大規模で多様な集団を対象としたバイオマーカー研究や、胎盤・胎児脳の遺伝子解析をさらに進めることが求められます。

こうした研究の積み重ねによって、妊娠中の鎮痛解熱薬使用に関するガイドラインや医療者からの助言にも変化が生じる可能性があるでしょう。

一方で、高熱や痛みを放置すると母体にもリスクが伴います。

私たちにできることは、最新の知見を踏まえて医師と相談し、適切な方法で症状をコントロールすることです。

今後、アセトアミノフェンの持つベネフィットとリスクがより正確に理解されることで、誰もが安心して薬を使える環境が整っていくことが期待されます。

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元論文

Associations of maternal blood biomarkers of prenatal APAP exposure with placental gene expression and child attention deficit hyperactivity disorder
https://doi.org/10.1038/s44220-025-00387-6

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。