研究内容の詳細は2025年2月4日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました。
目次
- 止まった脳は再び動くのか?――ガラス化技術の足跡
- 冷却から蘇生へ――実験の全貌
- 停止した記憶は蘇るのか――精神保存への道
止まった脳は再び動くのか?――ガラス化技術の足跡

生命を“凍らせる”という発想は、古くからSFで取り上げられてきたテーマです。
ところが、実際に生体を凍結する道のりは、決して簡単なものではありませんでした。
最大の障壁は、凍るときに生じる氷の結晶が組織や細胞膜を傷つけることです。
とりわけ脳は、緻密に連なった神経細胞と細やかな回路が電気信号をやり取りするため、ごく小さなダメージでも致命的な機能障害を招きやすいとされてきました。
一方、自然界を見渡すと、極寒の環境下でも体内で“凍結防止剤”のような物質を生み出し、氷の結晶化をうまく防ぎながら生き延びる昆虫や両生類が存在します。
それを手がかりに、1980年代からは哺乳類の細胞を凍結する際にも、同様の凍結防止剤を加える実験が進められてきました。
たとえば水分が結晶化しないように、グリセロールや糖類などを細胞内に取り込ませる方法です。
ただ、高濃度の凍結防止剤は有毒になる恐れもあり、最適な配合や濃度、浸透速度をめぐって、多くの研究者が試行錯誤を重ねてきました。
こうした中で注目されたのが、“ガラス化(ヴィトリフィケーション)”という手法です。
水分が結晶化せず、“固体なのに分子の配列がランダム”というガラス状に変化すると、氷の結晶が組織を壊すリスクを減らせます。
とはいえ、細胞内の水分をしっかり置き換えるほどの高濃度溶剤は毒性を持ちやすく、さらに冷却・解凍時の物理的ストレスを小さく抑える必要もあるため、乗り越えるべき課題は数多く残されていました。