そこでボールペンに取って代わられたわけですが、ここにも問題がありました。
地球の重力下ならインクがちゃんとペン先へ落ちていくのですが、宇宙の微小重力下ではインクが浮いて出にくくなったのです。
皆さんも安物のボールペンを買って、書いても書いてもインクが出ない経験があるでしょう。
あれと同じようなことが起こったと思われます。
ここでNASAは宇宙空間でも安定して使えるボールペンの開発に着手しますが、研究と開発にかかるコストが高騰したため、プロジェクトを早々に中止しました。
「人類は宇宙で字が書けないのか」と追い込まれた矢先、救世主が現れます。
アメリカのペン製造業者であるポール・C・フィッシャー(Paul C. Fisher)が1965年に同僚たちと協力して、宇宙空間でも安全かつ安定して使えるボールペン「フィッシャー・スペースペン(Fisher Space Pen )」を独自に開発したのです。
それはどんな仕組みになっていたのでしょうか?
宇宙で文字が書ける「フィッシャー・スペースペン」の凄さとは
フィッシャー・スペースペンは、内部に封入された窒素ガスの圧力によって、微小重力下でもインクがペン先へと安定して移動する仕組みになっています。
そのおかげで船内の宇宙飛行士がどんな体勢にあっても確実に字が書けるのです。
また特殊な粘着性の強いインクを使用しているため、乾燥することがなく100年以上の保管も可能とのこと。
加えて、水に濡れた紙にも油で汚れた紙にも字が書けます。
さらにマイナス34℃からプラス121℃の温度環境にも対応しており、まさに宇宙で字を書くには最適なボールペンです。
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その後、フィッシャー・スペースペンはNASAの厳しい検査をクリアし、正式に宇宙飛行士が使用するボールペンとして採用されました。
1968年のアポロ7号のミッションでデビューし、それ以降も宇宙船内での筆記にはすべてフィッシャー・スペースペンが使われています。