こうした仕組みは、科学的にも多くの研究で裏付けられており、脳が私たちの体験にどう影響を与えるかについて理解を深める手がかりとなります。

今回、研究者らは「期待」が「辛さ」の体験にどのような影響を与えるかを明らかにするために、fMRIを用いた実験を行いました。

実験で見えた「辛さ」と「期待」の関係

fMRIを使用して脳の活性化した領域をリアルタイムで解析
fMRIを使用して脳の活性化した領域をリアルタイムで解析 / Credit:Canva

今回の研究では、辛い食べ物が好きな人と嫌いな人が、それぞれ「これから辛いものを食べる」という期待を持ったときに、実際の体験がどのように異なるかが調べられました。

研究者たちは、47人の参加者に辛いソースを食べてもらい、その際の脳の反応をfMRIで観察することで、辛さに対する期待が体験にどう影響を与えるのかをリアルタイムで分析しました。

fMRIは、脳内の血流変化を測定し、脳が辛さを感じる際に活性化する領域を観察するために使用されました。

辛い食べ物が好きな人は、「これからおいしい辛さを楽しめる!」というポジティブな期待を持ってソースを食べました。

このような期待を持つと、fMRIの結果では、脳の報酬系に関与する前部島皮質、背外側前頭前野、前帯状皮質が活性化し、辛さが「心地よい刺激」や「楽しさ」として感じられることが示されました。

これにより、通常の不快感が抑えられ、体験がよりポジティブなものに変わったと考えられます。

一方で、辛い食べ物が苦手な人は、「これから辛くて不快なものを食べなければいけない」というネガティブな期待を抱いていました。

このような期待を持つと、fMRIの結果では、前帯状皮質や島皮質が強く活性化し、辛さが「痛み」や「不快感」としてより強く感じられることが示されました。

また、実際に辛さを感じたときには、Neurological Pain Signature (NPS) も活性化し、辛さが通常よりも強く痛みや不快感として感じられる結果となりました。