私たちの脳は、まだ体験していないことに対して「期待」を抱くだけで、その体験そのものの感じ方が大きく変わることがあります。
これは、食べ物や医療の分野でも確認されている現象で、ポジティブな期待が効果を促進する「プラセボ効果」や、ネガティブな期待が不快感を増幅させる「ノセボ効果」によく現れます。
では、日常的な体験、例えば辛い食べ物に対する「期待」は、どのように私たちの感じ方に影響を与えるのでしょうか?
中国・上海師範大学 (SHNU)、米国ウェイクフォレスト大学医学部らの研究チームは、「激辛ソース」を使い、辛さに対する期待が脳の反応や実際の体験にどのような影響を与えるのかを調査しました。
研究結果によると、辛い食べ物に対してポジティブな期待を持つ人は、脳の報酬系が活性化し、辛さを「楽しさ」や「快感」として感じることが明らかになりました。
その一方、ネガティブな期待を持つ人は、痛覚や不快感に関わる脳の領域が活性化し、辛さが「痛み」や「不快感」として強く感じられることがわかりました。
研究の詳細は、2024年10月8日付の学術誌『PLOS Biology』に掲載されました。
目次
- 期待が脳に与える影響とは?
- 実験で見えた「辛さ」と「期待」の関係
期待が脳に与える影響とは?
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私たちの脳は、体験をする前に抱く「期待」によって、その体験の内容が大きく変化することが知られています。
このような現象は、医療の分野でも確認されており、プラセボ効果やノセボ効果と呼ばれるものが代表例です。
プラセボ効果は、ポジティブな期待が治療効果を伴わなくても脳内で回復を促進する現象です。
例えば、「この薬は効くだろう」と期待して服用すると、薬自体に治療効果がなくても症状が改善されることがあります。
このとき、脳では前部島皮質や前帯状皮質など、感覚処理や痛みの軽減に関与する領域が活性化し、症状が改善されたと感じる仕組みが働きます。