ヴァンス副大統領は米国内で語るように欧州でも同じスタイルで政治家たちに語りかけた。直接的な意見だが、欧州への配慮が欠けていたことは事実だろう。欧州と米国の間には言語を含めパーセプション・ギャップがある。繊細さに欠けた、直接的な発言は欧州では余り受けが良くないのだ。
バンス副大統領はミュンヘンでAfDのヴァイデル党首と会見している。会見内容は報じられていないが、イーロン・マスク氏と同様、AfD支持を伝えたのではないか。マスク氏、そしてバンス副大統領と、トランプ政権の最重要人物から支援を受けたAfDは大喜びだろう。
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AfDの首相候補者ヴァイデル党首 AfD公式サイトから
ヴァンス副大統領、そしてマスク氏に進言したいことがある。AfD支持を表明する前に、AfDの思想的指導者、ヘッケ氏の政治信条を聞く必要がある。ドイツの政界がAfDの躍進に異常とも思える拒絶反応を見せるのには、それなりの理由があるのだ。対メキシコ国境から殺到する難民への米国の対応と、AfDが主張する難民政策を同列視はできないのだ。後者には明確な政治信条があるのだ。
ちなみに、テューリンゲン州のAfDの代表,ビュルン・ヘッケ氏は国家社会主義の言葉を彷彿させるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張している政治家だ。ドイツの基本法は「ドイツ国籍を有する者はすべてドイツ人」と明記しているが、ヘッケ氏はそれを認めていない。単なる外国人排斥政策だけではない。反憲法、反民主主義、反ユダヤ主義的な世界観を標榜している。彼は過去、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼び、ドイツの「民族的再生」を強調し、移民や多文化主義に対して強く反対してきた。また、ドイツの過去に対する悔恨を「過度なもの」として捉えている。ヘッケ氏の存在は、AfDが単なる不満票、抗議票を集める野党勢力ではないことを示している。
MSCの最大のテーマはウクライナ停戦問題だ。ウクライナのゼレンスキー大統領はミュンヘンでヴァンス副大統領と会見し、戦争を停戦しようとする米国側の努力に感謝していたが、同時に、「私はプーチンと対面で停戦交渉する用意はあるが、そのテーブルに米国とロシアの他に欧州の代表を参加させるべきだ」と提案している。ゼレンスキー大統領は口にこそ出さなかったが、ウクライナの停戦問題が米国とロシアの間だけで話し合われることに懸念があるからだろう。