異種移植の最大の課題は、ヒト免疫システムによる拒絶反応です。
この問題を解決するために、ブタの特定の遺伝子を削除するなど、ヒト免疫系が攻撃しにくい状態を作り出す技術が採用されています。
しかし、こうした改良にもかかわらず、完全な免疫拒絶反応の回避には至っていません。

一方、動物の体内で臓器を作製する胚盤胞補完法は、このような問題を解決する技術として期待されています。
これまでの研究で、同種間 (例:マウスの胚にマウス由来の多能性幹細胞を注入) および異種間 (例:マウスの胚にラット由来の多能性幹細胞を注入) の胚盤胞補完法によって、腎臓や肝臓、膵臓など多くの臓器が作製されてきました。
胚盤胞補完法の発展により、動物の体内でヒトの臓器を作ることができれば、免疫拒絶反応の回避が可能かもしれません。
今回紹介する研究では、マウスの体内でラット由来の心臓を作製する実験が行われました。
それでは、具体的な研究成果と課題について詳しく見ていきましょう。
動物体内で育てた臓器の課題と未来展望
奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは、胚盤胞補完法を用いて、マウスの体内でラットの心臓を作ることに成功しました。
この研究では、心臓が形成されないよう遺伝子操作を施したマウス胚盤胞にラットの多能性幹細胞 (ES細胞) を注入し、マウスの子宮内で発育させました。
その結果、ラット由来の心臓がマウス胚内で胎生12.5日目まで正常に機能することが確認されました。
しかし、胎生14.5日目以降では心臓の機能が失われ、胚の発育が停止することがわかりました。
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心臓の機能が失われる原因は、ラット細胞とマウス細胞の成長速度や異種間での細胞相互作用の違いが主な要因と考えられています。