では、この「取り出せる仕事を増大させる量子効果」は、最終的に熱力学第二法則を破ってしまうのでしょうか?

研究者たちは組み立てられた「悪魔エンジン」のモデルをもとに、徹底的な調査を行いました。

結果、確かに一時的にはエネルギー収支はプラスになるものの、1サイクルを終えた時のエネルギー収支は常に赤字かゼロであることが判明しました。

つまり、「量子効果を駆使すれば、より大きな一時的プラスを得ることは可能」ですが、全工程──測定、フィードバック、メモリ消去、環境とのやり取り──を合わせて考えると、トータルの帳尻は合うのです。

これこそが、名古屋大学の研究グループが悪魔エンジンの枠組みで明確に示した成果のひとつといえます。

このことは、量子世界にまで手法を拡大したとしても、悪魔エンジンは熱力学第二法則を破れないことを意味しています。

やや劇的に言えば、マクスウェルの悪魔は量子という武器を手に熱力学第二法則に挑んだものの、結局は法則を破ることはできなかったわけです。

この研究により、量子論が許すどんな測定や操作を使っても、最終的には熱力学第二法則を破ることなく、「一瞬だけはプラス」の状態を作り出せるという事実が再確認されました。

これは「量子だから絶対に第二法則に隙がない」とか「量子なら簡単に第二法則を破れる」という単純な話ではなく、量子論は悪魔に“特別な力”を与えうる一方で、結局は全体のバランスが取れる形で第二法則が守られる、という結果を示しています。

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参考文献

No quantum exorcism for Maxwell’s demon (but it doesn’t need one)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result-en/2025/02/20250210-01.html

元論文

Universal validity of the second law of information thermodynamics
https://doi.org/10.1038/s41534-024-00922-w