悪魔は世界の理を覆せるのでしょうか?

名古屋大学で行われた研究により「悪魔エンジン」の数理モデルが開発されました。

メディア向けに発表された資料のタイトルも『マクスウェルの悪魔に量子的悪魔祓いは通用しない。しかし、そもそも必要ない(No quantum exorcism for Maxwell’s demon (but it doesn’t need one))』と極めて魅力的なものになっています。

悪魔エンジンは、熱力学第二法則を破りかねないマクスウェルの悪魔を動力にした理論モデルであり、もし実現できれば無限にエネルギーを生み出せると長年考えられてきました。

また、量子力学の分野では、マクスウェルの悪魔による「取り出し可能な仕事」が増大すると予測され、古典物理より大きなエネルギー収支の「見かけのプラス」が期待されていました。

量子世界の不思議という武器を手にしたマクスウェルの悪魔は、本当に熱力学第二法則を破ることができるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年2月7日に『npj Quantum Information』にて公開されました。

目次

  • マクスウェルの悪魔を動力にした「悪魔エンジン」
  • 量子世界まで網羅する「悪魔エンジン」の数理モデル

マクスウェルの悪魔を動力にした「悪魔エンジン」

名古屋大学が「悪魔エンジン」の数学的モデルを開発
名古屋大学が「悪魔エンジン」の数学的モデルを開発 / FIG1は、悪魔エンジン全体の仕組みをひと目で理解できるように描かれた図です。 この図には、5つの主要な部分が示されています。 まず、対象となる系Aは、エネルギーや情報の元となるガスや量子状態がある場所です。 次に、悪魔の内部状態Mがあり、これはマクスウェルの悪魔が情報を集めるための「脳」や「記憶装置」にあたります。 さらに、レジスタKと呼ばれる部分があり、ここには測定結果が記録されます。 また、エネルギーを取り出す操作に使う一定温度の環境B1と、記憶を消すための一定温度の環境B2という2つの環境も示されています。 これらすべての部分は、同じ温度の環境下で動いており、悪魔エンジンの3つの段階(測定、エネルギー取り出し、メモリ消去)がどのように連携して動くかを示しています。 この図を見ることで、各部分がどうつながり、全体のエネルギーのやり取りがどのように計算されるかを直感的に理解できます。/Credit:Shintaro Minagawa et al . npj Quantum Information (2025)