たった一種の生物の存在が「森や川の風景を変える」なんてことがあるのでしょうか。
実は、アメリカのイエローストーン国立公園では、オオカミ(Canis lupus)が再導入されたことで、草原や森林の様子が劇的に変化しました。
オレゴン州立大学のウィリアム・J・リップル(William J. Ripple)氏ら研究チームは、オオカミの再導入後の影響を分析し、驚くべき「栄養カスケード(trophic cascade)」の効果を明らかにしました。
この研究は、2025年1月14日付の『Global Ecology and Conservation』誌に掲載されています。
目次
- オオカミが消えたら何が起こったのか?
- オオカミ再導入がもたらした「奇跡」
オオカミが消えたら何が起こったのか?
1920年代、イエローストーン国立公園ではオオカミの駆除が進められ、ついには公園内から姿を消しました。
その後、数十年にわたりオオカミがいない状態が続きました。
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オオカミの消失後、シカ族のワピチ(学名: Cervus canadensis)の個体数が急増しました。
彼らは安全な公園の中で、堂々と歩き回るようになったのです。
そしてワピチが自由に植生を食べた結果、公園内のヤナギやポプラなどの木々が減少しました。
ただ植物が減っただけではありません。
河川沿いのヤナギの消失はビーバーの減少を招きました。
ビーバーはダムを作り、水流を調整することで多くの生物にとって重要な生息地を提供します。
しかし食料となるヤナギがなくなったことで、ビーバーは姿を消し、湿地が乾燥。川の流れも変化しました。
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ビーバーへの影響は1つの例に過ぎず、実際には多方面に大きな影響が及びました。
1つの捕食者の消失が、生態系全体にドミノ倒しのような影響をもたらすこととなったのです。