ミトコンドリアの異常は、アルツハイマー病や自閉症、統合失調症、うつ病など、さまざまな神経疾患と深く関わっていると考えられています。
脳が正しく情報を処理し、記憶を作るためには、神経細胞間のスムーズなコミュニケーションと、十分なエネルギー供給が不可欠です。
今回の研究では、海馬CA2領域のニューロンで、MCUがシナプスを強くする大切な役割を果たしていることが明らかになりました。
MCUがないと、ミトコンドリアは小さくなり、バラバラになり、結果として外側のシナプスでの長期増強(LTP)がうまく起こらなくなります。これは、脳内の情報のやり取りや記憶の固定に大きな影響を与える可能性があります。
この発見は、神経疾患が始まる初期段階で、特に外側のシナプスが弱くなる原因の一つとして、ミトコンドリアの機能不全が関わっているかもしれないことを示唆しています。
さらに、ミトコンドリアの働きやその特殊な配置、そしてMCUの役割を詳しく知ることで、将来的にはミトコンドリアの健康を直接改善する治療法が開発される可能性があります。
たとえば、MCUの働きを調節したり、ミトコンドリアがバラバラにならないようにする方法が見つかれば、神経細胞が十分なエネルギーを得られ、シナプスが強くなり、結果として記憶や社会的な認知が回復するかもしれません。
こうした新しい治療戦略は、神経疾患の進行を遅らせたり、場合によっては脳の機能を取り戻す大きな一歩となる可能性があります。
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元論文
MCU expression in hippocampal CA2 neurons modulates dendritic mitochondrial morphology and synaptic plasticity
https://doi.org/10.1038/s41598-025-85958-4
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。