面白いことに、ニューロンはその複雑な形に合わせて、必要な場所にミトコンドリアをうまく配置しています。

最新の研究によれば、ミトコンドリアはただエネルギーを作るだけではなく、細胞の中でどこにあるかによってその形や働きが大きく変わることがわかってきました。

例えば、海馬のCA2領域にあるニューロンでは、樹状突起(ニューロンの枝のような部分)の場所ごとにミトコンドリアの性質が異なり、学習や記憶のための神経回路の調整(シナプスの可塑性)に大きな役割を果たしています。

海馬CA2領域―社会的記憶の要

脳の記憶をつくる中心部である海馬の中でも、CA2領域はとても特別な場所です。

CA2は、友達や家族など、他人を識別し覚える「社会的記憶」に関わっており、他の海馬の領域(CA1CA3)とは違った仕組みで働いています。

最新の実験では、CA2領域のニューロンが単に情報を記憶するだけでなく、実際に仲間や家族を区別するための記憶を作るのに重要な働きをしていることが明らかになりました。

特に、ニューロンの枝の先端(外側のシナプス部分)では、ミトコンドリアが特別な配置や働きをしているのが分かりました。ここでは、カルシウムを取り込むMCUというタンパク質が豊富にあり、神経活動に合わせてエネルギーを供給し、シナプスを強くする(長期増強、LTP)役割を果たしています。

これにより、必要なときに神経回路がうまく再編成され、私たちが人を認識するための記憶がしっかりと形作られているのです。

ミトコンドリアを狂わせると脳も狂った

ミトコンドリアは学習、記憶、社会性を支えていた
ミトコンドリアは学習、記憶、社会性を支えていた / Credit:Canva

MCU(ミトコンドリアの部品)を取り除いてみたら

今回の研究では、海馬CA2領域にあるニューロンで、MCUというミトコンドリアの部品が特に細胞の枝(樹状突起)の先端、つまり外側のシナプス部分にたくさんあることがわかりました。