そして彼らは現地でタバコの葉を大量に仕入れて、ヨーロッパへともたらしたのです。
突如として現れたタバコはヨーロッパの医者たちにとって非常に刺激的なものでした。
嗜好品として楽しめるだけでなく、あらゆる病気の治療に役立つ「万能薬」と信じられたからです。
当時はまだタバコの裏の顔を暴くだけの科学が発達していなかったため、医師たちは伝えられるがままの俗信や迷信を鵜呑みにし、タバコを使った種々雑多なトンデモ医療がまかり通っていました。
その中でも特にブッ飛んでいたのが「タバコ浣腸」です。
なぜお尻の穴からタバコの煙を吹き込んだの?
タバコ浣腸が最も流行していたのは18世紀のイギリスです。
ロンドンを流れるテムズ川では当時、水難事故が多発していました。
大都市ロンドンの憩いの場として多くの人がテムズ川に集っていたのですが、まだ泳ぎ方が人々の間に浸透していなかったせいで、溺れる人が続出したのです。
イギリスの医学界は「溺れた人たちの何かいい蘇生法はないか?」と頭を悩ましていました。
そこで目をつけられたのが、当時イギリスにも輸入され始めていたタバコです。
ロンドンで医療を営んでいたウィリアム・ホーズ(1736〜1808)とトーマス・コーガン(1736〜1818)は、溺れた人のお尻の穴にタバコの煙を吹き込む「タバコ浣腸」を推進し始めます。
彼らはタバコの煙を吹き込むためのチューブを持ち歩き、テムズ川で溺れて意識を失った人を見つけたら、川から引きずり上げ、服を破ってうつ伏せにし、お尻の穴にチューブを接続して、タバコの煙を吹き込んだのです。
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彼らがタバコ浣腸をしようと考えた理由は2つ。
1つはタバコの煙が体を温めることで、溺れた人の意識が戻ると思ったから。
もう1つはタバコの煙が呼吸器を刺激することで、溺れた人の呼吸が促されると思ったからです。